「ファイト！」と声援を送る中島みゆきの厳しさ

中島みゆきの「ファイト！」という曲を知っている人も多いだろう。

最近ではカロリーメイトのCMで使われたのが記憶に新しい。

この曲が最初に発表されたのは、1983年のアルバム「予感」である。

ドラムの音がポツリポツリと断続的に刻まれるイントロ。

そのまま歌が始まる。

「あたし中卒やからね」

一言目からゾクッとさせられる。

その後も、階段で突き落とされる人を黙って見ているしかできなかった女、鱗の剥がれかけた魚、田舎を出ようとしていじめられる女などが描写される。

その間に「ファイト！」という元気な掛け声が入るが、この曲は決して受験を応援するようなものではない。

受験程度のことに声援を送るような軽い歌ではない。

命をかけた後のない闘いに声援を送っているのだ。

それも、「頑張れば何とかなる」という無責任な優しさではなく、厳しくてもとにかく進むしかないという、鞭を打つような声援だ。

渾身の「ファイト！」を聞くことができるのが、2007年コンサートツアーを収録したDVD、「歌旅」だ。

これだけ重い内容の歌を、笑顔で、しかし力を込めて歌い上げている。

まさに「歌姫」にふさわしい最高傑作である。

歌詞を全て聴くと、大半の人が「自分に向けられたファイトではない」と思うほどに、救いのない人に向けられた「ファイト！」。

自分宛てと思って神妙に聴いても、他人事だと思って楽しく聴くのもどちらもありだろう。

歌とラジオのギャップのように、聞き方にもいろいろな幅を許容する中島みゆき。

日本のアーティストの巨人である。

これからも目が離せない。

まろの思いつき